夫婦になって、2年5カ月。
思えば、これまでの人生の中で大きくレールを外れた生き方はしていない気がする。
父と母と兄との4人家族。基本的に親に守られている道を選んできた自分は、父の転勤でシンガポールへ行き、一度帰国後もまた再度の転勤の際、兄は自分で日本に残ったが、わたしはついていった。
本帰国後も、今の夫と出会うまでは世田谷の実家にいて単身ニューヨークで転勤中の父の帰国を待ちながら、母と実家に暮らしていた。
だから、自分の力で生きていく自信を抱いたことはない。
でも、夫は正反対で、若い頃から自分の力でずっと生きてきた人間だ。
ミュージシャンとしての音楽活動をお義父さんに認めてもらうまで、10年程かかり、日々リスクを取って前に進む暮らしの中を生きている。
そんな育ちの違うわたしたちが、共通して大切にしていたものは好奇心の強さだった。
海外暮らしが長かったせいか、幼い頃からわたしは、興味のあるものは「この目で見たい」と1人でどんどん進んでいってしまうし、彼は凝り性でとにかく深掘りをする。
だから、挙式やウエディングパーティーでできる限り自分たちの手作りにこだわる時間を作り出していったのも、そういったお互いの精神がベースにあるからだろう。
「私、結婚式は インディーズを目指すことにしました。」
こんな発信をしたのは、もう2年前のこと。
これが、夫婦二人でウエディングのことを調べつくして出した結論だった。
わたしたちが入籍をしたのは2016年11月。翌年、2017年6月に家族挙式を挙げ、スケジュールの関係で9月に友人向けパーティーをした。
(前回の記事より)
家族挙式もウエディングパーティーもしようと決めたのは、これまで自分たちを支えてくれた周囲の人たちへの感謝から始まったことだ。
そんな大切な人たちに自分たちは何を伝えるのか?
それをずっと模索しながら、ウエディングの準備を進めていた。
ウエディングパーティーで伝えたかったのは、深い好奇心を持つほど「愛する人生」になるということだったのかもしれない
大切な人たちへ感謝の気持ちを伝えたいというのはみんな同じだ思う。
招待するゲストはこれまでずっとご縁が続いている人たちだろう。
わたしたちも、パーティーに参加していただいたゲストは、自分たちが来てほしいと思えるお世話になった方々、友人、仲間。
結婚式のコンセプトは、「永く大切にしたいもの」だった。
だから、家族挙式も永く使えるもの、付き合っていきたい関係だけを大切にしていた。
さすがにパーティー会場は家族挙式のように手作りではなかったのだけれど、わたしたちのパーティーの構成は一般的なケーキカットや新婦から母への手紙こそ入れたものの、ライブが大半を占めていた。
ミュージシャンという職業を考えれば自然ともいえることだが、わたしにとっても、人生で一番大切なものは音楽だと感じている。
夫と出会ったのも、音楽への好奇心、探究心が強いからだと思う。
何かを知ろうとするほど、愛することも深くなる。
すべての物事の原動力は好奇心で、「何それ?」「えっ、どうして?」ということは、あらゆることが動くきっかけになる。
「興味を持つこと」が強く、そうゆう信念に"どれだけ心を込めるか"で自然と人との関係も深くなるし、趣味や仕事もおもしろくなっていくものだ。
だからこそ、迷うことなく、パーティーの内容は自分たちが人生で好奇心を持ち続けて得られてきた愛すべきものを、随所に散りばめた会になっていった。
「体感する体験」に重点を置いた時間
最近はセミナーでも結婚式でも、ゲスト参加型の企画に重点をおいた会が多い。
でも、たまにそれが押し付けのように感じておっくうな時がある。
たとえば、結婚式はただ新郎新婦を祝福するために集まってくれているのに、特にやりたくもないゲームやクイズなどに参加させられているという感覚を感じてきた人は多いだろう。
主催側が良かれと思って行う、ゲスト同士の交流というみんなが揃って同じ行動を促される感覚は、必ずしも全員が喜んで受け入れているわけではない。
もちろん、これはさして大きな問題に捉えてはいないしゲストはそんな胸の内は明かさないので、意外と主催側は気づいていないが、実際何度もウエディングパーティーに参加して感じてきたリアルな気持ちだ。
わたし自身は周囲との交流は問題ない方ではあるけれど、そう感じるのは、「良い出会いがあったらいいな」と考えるのはあくまでも頭の片隅程度で、来ている人たちの目的が「交流」ではないからなのかもしれない。
だから、強制参加のような企画は外し、自分たちが大切にしていることを感じてもらい、ゲストの気持ちもあたたかくなる時間をつくることにした。
それは演者側の生きざまが伝わる生ライブをその場で体感してもらうこと。
新郎側は新郎も含めたミュージシャンによる演奏、新婦側は新婦の友人ミュージシャンによる演奏。どちらも長年の付き合いを重ねてきた関係性だ。
ライブは交流をする参加型企画とは違うが、オーディエンスがいないと成り立たない体感型の時間。
パフォーマンスが何かの学びになったり、音楽が明日への活力になったり、何を持ち帰ってもらうかは自由でいい。
周りとの交流が自然に生まれるならそれでいい。
それよりも全身で体感する経験は、必ず人の記憶に残るものだと思う。
その日のライブ内容はお金では得られないとてもスぺシャルで、胸に響く宝物のような時間だった。
母にあてた手紙。「自分の芯をもって生きていく」ことへの周囲からの言葉
わたしは、ミュージシャンの方々や式の協力をしてくれたヘアメイクさん、ジュエリーを製作してくれたジュエリーデザイナーの友人へお礼の挨拶をした後、母への手紙を読んだ。
結婚式での手紙というもの自体、実はあまり得意ではなく、当初は気が進まなかったし、本当は人に聞いてもらう内容ではない。
でも、こんな機会でもないとなかなか伝えられないのでパーティーの前日に両親と暮らした日々を振り返り、ペンを動かし始めた。
そこには、これまで親から貰ったプレゼントで一番嬉しかったのは、SONYのウォークマンだったこと。
当初、父から「ミュージシャンとの結婚なんてだめだ、絶対会わない」と言われていたのが、一年の同棲期間を経て理解をしてくれ、「照れ臭いのでお母さんには内緒だけど、今はもう一人の息子ができたみたいに思っている」と言ってくれたこと。
母に一番心配をかけたであろうことは、おそらくこの結婚のことで、それでもわたしはこれまでずっと音楽に支えられてきて、これからの人生も音楽に包まれて生きていく人生を選んだこと。
読みながら、ベタに泣いてしまったのだが、パーティーが終わりゲストを見送っているとき、次々と「手紙が本当に良くて、結婚パーティーとして楽しかった」「手紙に感動した」「こんな結婚式ならもう一度やりたい」という言葉があった。
この日のパーティー後、夫から言われたこと。
「今まで自分たちが演者として演奏してきた結婚式では、どうしてもいつも印象に残るのはライブになることが多い。だから、ライブを抜いて、みんなが"結婚式"の時間を口にしてくれるのなかなかないことだよ。」
特別な内容を書いたつもりはない。
ただ、わたしは、きっと素晴らしいライブを体感してもらった後の内容だったからこそ、芯をもって生きていく大切さの真っさらな感情が人の心に届いたのだと思っている。
パーティーの後日、家に届いた感謝の手紙
ウエディングパーティーが無事に終わり、数日後、一通の手紙が我が家に届いた。
差出人は、パーティーのお手伝いもしてくれていた夫の後輩の女の子。
両名宛に届いた手紙の封を開くと、そこには「お二人を見ていて感動したことが沢山あったので、手紙を書かせて頂きました。」とあった。
【一部抜粋】
先輩とは私が高校1年の頃からお世話になっているので、もうすぐ15年の付き合いになります。
お手紙の中にあった幼少期のエピソードや、ライブに行ったり、ハーブを習って実際にご自分でハーブティーを作られたりというお話を聞いて、何でも興味関心が浅く、自分で決めたことも途中で熱が冷めてしまう私にとって、その好奇心や行動力はとても魅力的でした。
仕事や育児を理由に、何か新しいことに挑戦したい、もっと自分を高めたいという気持ちを見て見ぬふりをしていましたが、今自分に出来る範囲で一つでもやり遂げてみようと思いました。
そして、お二人の周りの方々もご自身で夢を叶えられ活躍されている方が多く、皆さん、お二人がパーティーに向けて頑張っている姿を見て、心から力になりたいと思っている気持ちが伝わってきて感動しました。
私の友人も言っていましたが、豪華なライブがあったからという訳ではなく、結婚パーティーとして本当に素敵な時間でした。
随所にお互いを思いやる気持ちが表れていて、パーティーの最中にも関わらず、ちょっと主人と子供の顔が見たくなってしまいました。
先輩、なんだかんだ尊敬しています。
もう少し余裕ができたら、また楽器やりたいのでその時はよろしくお願いします。
わたしは、人づきあいが上手くはない夫が、こんな風に慕われて、手紙を貰える後輩がいるとうことがうらやましく、なんだか誇らしく感じた。
元々、美容の仕事をしていた彼女からは、それから5ヵ月後、ネイリスト試験に合格したという知らせが届く。
「あきこさんに出会っていなかったらしなかった勉強だし、育児してても何かチャレンジ出来る!って自信になりました。ちょっとずつステップアップしていきたいです。」と語る彼女は、最近では、個人でメイクやスキンケアレッスンをスタートすることにチャレンジしている。
わたしは、夫が関わってきた時間と比べれば、彼女のために特別何かをしてあげられたわけではない。それでも、人がプラスに行動する原動力を与えられた時間になっていたということに「パーティーをやってよかった」と心から思えた。
夫は、手紙を読んで「ずっと取っておきたくなる手紙だね」と嬉しそうに言った。
ゲストの人生にも寄り添える会とは
ゲストへの手作りハーブティーギフト
もともと豪華なパーティーは望んでいなかったので、自分自身の家族を思い出すくらい温かい気持ちになってもらえるほど、嬉しいことはない。
ただ、それはわたしたちの力じゃなく、その場の空気を体感して自分ごとに感じ取って行動をした彼女自身の力だ。
そして、あの場を温めたのは、わたしたち夫婦が常日頃から支えられている音楽。
わたし自身もこれまでずっと辛い時や嬉しい時、さまざまな場面で音楽に勇気づけられ、「また明日も頑張ろう」と日々を過ごしてきたし、今回起きたこともそうだと思う。
だから、アーティストが命を吹き込んだ文章や音楽には、人の人生を良い方向に導いてくれる力があると信じている。
結婚式は、小さくても、構成が一般的でなくても、大切なのは深い人間関係の中に成り立つ会であることをふたりが終始忘れず、どれだけ自分の言葉で伝えられるかだろう。
ライブのコミュニケーション、母への手紙、夫の後輩からの手紙とつながれた「想いをつなぐ時間」のエネルギーのカケラが、その場にいた人たちの人生に寄り添えていたら嬉しい。
こんな風に思えるようになったのは、間違いなく夫から力をもらっているからだ。
結局、これまでと変わらず、大切な人に守られた暮らしを送っている自分なのだが、守られながらも、ふたりでハングリーに生きていく人生は悪くない。
一人で生きていくよりも、ふたりの方が強くなれると今はわかる。
だから、「家族がいるから好きなことを我慢する」のではなく「家族に守られているからこそ勇気が出せる」という甘えとは違う支えの視点をもってほしい。
そして、小さいことからでも一歩を踏み出して日常をもっと楽しんでほしいと思う。
竹内 亜希子 Akiko Takeuchi
-植物療法士(フィトセラピスト)
-女性の健康経営推進員
-健康経営エキスパートアドバイザー
幼少より10年間シンガポールで暮らす。
帰国後、会社員として働く中で余白時間を奪われる社会の渦に揉まれ、20代半ばに坐骨神経痛を一年患い、根本改善のためにストレスケアにフォーカス。食生活改善と植物療法を実践し、3ヶ月で完治。
植物療法士として、働く世代の女性の心身のセルフケア、ストレスやホルモンバランスの体の変化をコントロールできる体質づくりを指導。
オリジナルハーブティーブレンド 販売、カフェ等の店舗向けオリジナルハーブティー商品企画・提供、大切な人とのヘルシーな時間を追求するカルチャーメディア『Documentary Gift 』を運営。
現在は、ヘルスケア企業にて、健康保険組合や企業に向けた生活習慣改善プログラムの提供・運営や健康経営推進、中でも女性の健康づくりに注力。
働く女性にとっての「からだにいい生き方」や予防のための「セルフケア」を継続する暮らしのつくり方を伝えている。
趣味:日々の楽しみは、心打つライブと毎日調合するハーブティー、そして家族と食卓を囲う時間。