あなたは、毎日の疲れを自分なりの方法で癒しているとき、こころも健康に満ち足りているなぁと実感しているだろうか?
日本では、からだを癒すときには、マッサージに行ってみたり、自分なりのバスタイムを楽しんだり、とりあえず睡眠をたっぷりとるという人が多いかもしれない。
一方、フランスなどのヨーロッパでは、からだの不調が生じた際には、まず古くからあるエルボリステリアといわれるハーブ薬局に行く人がほとんど。
病院に行かなくてもカジュアルに自分の症状を植物療法士に相談しながら、適正な薬草を選び使用することで、自分主導でからだ全体をケアし、自然治癒力を高めていくという処方だ。
かくいう、わたしもハーブなどの専門知識をもつ植物療法士なので、その日の調子にあわせたハーブティーを飲んだり、ブレンドしたアロマオイルでマッサージをすることがあるけれど、ゆったりと心地よい空間でリラックスするようなスタイルをいつも実現できているわけではない。
部屋が散らかっていることも、キッチンに立ちながら飲むこともしばしば...。
そんな感じが続くと、特に精神疲労感が抜けなくて。
自分にとって、心地よい状態の日々を送るには、メンタル(内部)が健康でいないと意味がなく、これには自分を取り巻く環境(外部)の美の関係性が深く関わってくるのだなぁと実感する。
この記事にたどり着いてくださったあなたは、きっとオーガニックな自然の香りが好きで薬に頼らないセルフケア、リラックスした自分らしい暮らしを好む方だと思う。
もし、今「自分なりにからだに気を使っているけれど消耗しやすいなぁ」と日々感じているとしたら、これから紹介する普段意識しない環境と空間づくりを含めたからだを癒す海外の視点を取り入れてメンタルの消耗を解いていこう。
世界最古の薬局。自分たちの「変わらないカルチャー」を後世に残していく強さが訪れる人を惹きつける
世界遺産の街、フィレンツェを歩いていると、街並みの一部に溶け込む形で現存する世界最古の薬局がある。
一見、通りすぎてしまうくらいのエントランスは、中央駅(サンタマリアノヴェッラ)から約3〜5分のスカーラ通り沿いにあるのだけれど、実際まったく気づかず、Google Mapで位置を見て初めて「あっ。ここ?」と発見するほどだった。
おそるおそる中に入ってみて、入口の廊下を通過すると、最初のメイン販売ホールが見えてきた。
見てわかる通り、「薬局?」と思うような美術館や博物館のような空間。
そう。ここは、もともと修道院だった場所で、一般の薬局のように、風邪薬や頭痛薬などを置いているわけではない。
この薬局が生産する商品は、ハーブの効果や効能を最大限にいかしたオーデコロン(香水)やポプリ、基礎化粧品やボディケア商品、リキュールなどが主力で、フレグランスコーナー、石鹸コーナー、コスメコーナーとそれぞれに分かれている。
そのほかには、1612年の創業当時から製造に使われていたガラス器や機械、アンティーク陶器、ブロンズなどの製品が展示されていたり、メイン販売ホールを抜けるとポプリコーナーの部屋があり、右手奥にはティールームのカフェ。
製品の紅茶やハーブティー、チョコレートなどを楽しむことができる。
ティールームの反対側には、小さな礼拝堂があり、「円卓の最後の晩餐」などのフレスコ画が残っている。
薬局では、新しい製品ニーズに応えながらも、その昔、修道士たちががつくっていた最高品質のナチュラルな原材料、手作りの製法の伝統を忠実に守り、「癒し」を与えるという想いを何百年も変わらず今に伝えているという徹底ぶり。
20代~50代など年齢もさまざまな訪れる人々は、こだわり抜かれた製品を手にし、香りを胸の奥まで吸い込んでいる表情....。
目にしただけで、何を伝えたいかが伝わるという場所。
「大切なことは変わらない」姿勢を表現する空間づくりからは、しっかりと購入側の信頼感を積み重ねているブランド力の強さを感じられる。
時代に流されない空間を残し続けるのは、フィレンツェの街の芸術、空気、自然をひっくるめた癒しを伝えたいから
サンタ・マリア・ノヴェッラと名のつく所は、フィレンツェのメイン駅、教会、薬局とあるけれど、もっとも古いのが教会で1221年に遡る。今から約800年も前の話....。
修道士たちが教会でお祈りしたり、庭園の土地に薬草(ハーブ)を栽培していて、修道士の看護のために薬草から薬、香油、軟膏などをつくっていたのがはじまり。
1612年、薬局として認可され、一般公開されるように。
薬局の初代薬局長は聖職者でありながら植物学のみならず科学的な知識も駆使し研究所の名声を高めていたので、当時のトスカーナ大公より王家(メディチ家)御用達製錬所の称号を得るまでに成長。
顧客リストには、その時代ごとのヨーロッパの貴族やセレブリティがいる、もう約400年以上続く、世界最古のハーブ薬局。
でも、フィレンツェにはどの修道院にも、こうした薬局はあっただろうに、なぜここだけが現存しているのだろう?
それは、現在残っている薬局のほとんどは、1800年代後半に国の管理下に置かれた後、現代医学の薬局として変化を遂げていったから。
そんな中で、今も、最後の薬局長を務めた修道士の子孫が伝統を守って薬局を経営しているサンタ・マリア・ノヴェッラが昔のままの姿を残したのは、個人の企業に渡ったという経緯が大きいのだろう。
時代とともに、同じカラーの中にうもれていくのではなく、「個」であるからこそ伝えたいメッセージがある。
彼らのこだわりは、古いものを大切にする歴史と伝統に裏付けられたレシピを活かしながら、新しいクオリティを追求し、そこには人の手も時間も惜しみなくかけるというもの。
▲フィレンツェ郊外に広がる丘からハーブなど天然栽培の草花や天然樹脂を使っている商品リスト
当時は薬局内部に製造所があったということで、そのすべてがフィレンツェの歴史そのものなのである。
この場所を守りつづける姿勢を見れる裏話はこちらの記事よりどうぞ。
参照:フィレンツェの歴史的建造物の保存〜サンタマリアノヴェッラ薬局の場合
植物、美しいものの香り、天井のゴシック様式やフレスコ画などの芸術的な建物を含めた街そのものから感じる美のムードを生活に取り入れる豊かな習慣こそが、わたしたちを「癒す」という想いで、この薬局は今日に至るまでずっと運営され続けてきた。
空間美学は癒しの素。店内は自然の香りとともに内部と外部をつなげるホリスティックな美に溢れていた。
薬局内で、昔から変わらない植物天然由来の香水やポプリ、スキンケア製品の香りとともに、旧薬房などの古い展示品などを見ていると、時が巻き戻されたような感覚になってくる不思議な感覚があった。
今もトスカーナの丘で当時と変わらず、自然なままでハーブや草花を育て、製品を作っている。
今回、購入した定番のローズウォーターを店内で試したときも、一番記憶に残るのは、不要なものが入っていないストレートに届く天然ローズの香り。
世界的にも生産量が少ないピンク系の強い5月のバラで、その香料が配合されているため、すっきりとしていながら芳醇な香りが舞う。
間接照明の中で装飾や綺麗なボトルなど、感覚で美しいと感じるものを眺めながら、スキンケア製品などを試すゆったりとした時間の中に包まれると、気の遠くなるような長い歴史と伝統の美しさをからだに吸い込んでいるような気分になるのだ。
フィレンツェ の美しい街並みも、このような建物も、日本人と西欧人の空間認識の差を感じずにはいられない...。
そりゃあ、古代ローマ時代からの都市の歴史と戦後数十年の東京では差がありすぎるし、日本は木材が多く、ヨーロッパは石やレンガがメインで地震も少ないという国の風土や気候、土地の広さなども建物に大きな影響を与えているのはわかっている。
ただ、空間における一番の美学の違いは、内部と外部との関係性を重要視する点だ。
つまり、景色や光、風と建物、そういったつながりを重要視していて、その建物だけで存在しているのではなく、周囲の環境や自然があることを視野に入れているということ。
それを取り入れているから、街などの周辺の良さが内部でも味わえる。
現在の日本では、限られた空間の中で快適に過ごす智恵があるため、コンパクトなスペースにアイデアを入れ込むのが得意。
特徴は活かしたまま「外部と内部のつながりをもっと意識すれば、より心地よくなる」という空間づくりのとらえ方は、植物療法の考え方と似ているように思う。
それは、外の自然で育まれたハーブに含まれている何百、何千の多様成分は穏やかにからだの内部へ効いていく特徴があること。
からだの一部だけをケアするのではなく、からだと心(源ひとつ)の「全体のつながりを意識してアプローチしていく」というホリスティック(全体的・包括的)な観点から見るもの。
世界遺産の街、天然由来の素材、価値ある伝統的な建物といった外部の環境と昔から続く信念を通して、人々のからだの内部につながっていくという全体をとらえたトータルの美を肌を通して感じる。
そんなホリスティックケアでからだを癒す体験ができるめずらしい場所だった。
癒しとは自分の手で自分自身を「守る力」をもつこと
外側と内側へのつながりや取り巻く環境を重視すると、より心地よい状態がつくれることはわかっても、結局それらをつなぐ役割として「人の手で守ること」ができなければ成り立たない。
サンタ・マリア・ノヴェッラ薬局では、大量生産をせずに、人の手を介して植物が摘まれ選別する。そして、フィレンツェでつくられた恵みを受け取るわたしたち自身も、やはり手で触れてケアをする。
自分の手でオイルを塗ったり、マッサージをする「手当て」は今のからだの状態がわかり、心身全体をリラックスさせ、癒す効果がより一層高まるからだ。
自らをケアすること、香りで気持ちを豊かにすることは、自分自身の内側を守る行為なのだろう。
植物のもっている力で生きていくために培った自己防衛・保存力が非常に優れている点ともイコールだと思う。
植物は動物のように動けないため、嵐や外敵、強い日差しなど外部からの攻撃から常に自分を守る必要があり、生き抜くために抗酸化作用(老化防止)のある植物化学成分を自らつくりだしている、タフな存在というのが本来の姿。
わたしたちも植物と同じように、自分で自分のからだを守り癒すことで、免疫もつき強さが増していくことを実感しながら生きている。
起源から800年以上続く、修道士の磨き上げた処方の根底にある「癒し」。
セルフケアをするときは、少しだけ意識して外の環境、光の強さ、香りを含めた部屋の居心地など精神的な心地よさを見直して、自身のからだや大切な人を癒してみてほしい。
周囲と身をおく環境にこだわり、こころの消耗を解きながら、自分の手で内側にある変わらない大切な想いを守っていく時間を育んでいこう。
サンタ・マリア・ノヴェッラ薬局は今や世界中に支店があり、日本全国、東京は銀座や丸の内などに店舗があるので、気になった方は以下WEB サイトより。
フィレンツェ本店では日本価格の3分の2くらいで買える上、一定額を越えると免税に。
機会があれば、ぜひ、現存するこの癒しの空間の空気を感じながら気に入った製品を現地で購入を。
Officina Profumo - Farmaceutica di
Santa Maria Novella
オッフィチーナ・プロフーモ・ファルマチェウティカ・ディ・
サンタ・マリア・ノヴェッラ
住所:Via della Scala, 16-50123
TEL:+39-055-216276
公式サイト:http://www.smnovella.it/
(日本語表記あり)
営業時間:9:00~20:00
休業日:なし
竹内 亜希子 Akiko Takeuchi
-植物療法士(フィトセラピスト)
-女性の健康経営推進員
-健康経営エキスパートアドバイザー
幼少より10年間シンガポールで暮らす。
帰国後、会社員として働く中で余白時間を奪われる社会の渦に揉まれ、20代半ばに坐骨神経痛を一年患い、根本改善のためにストレスケアにフォーカス。食生活改善と植物療法を実践し、3ヶ月で完治。
植物療法士として、働く世代の女性の心身のセルフケア、ストレスやホルモンバランスの体の変化をコントロールできる体質づくりを指導。
オリジナルハーブティーブレンド 販売、カフェ等の店舗向けオリジナルハーブティー商品企画・提供、大切な人とのヘルシーな時間を追求するカルチャーメディア『Documentary Gift 』を運営。
現在は、ヘルスケア企業にて、健康保険組合や企業に向けた生活習慣改善プログラムの提供・運営や健康経営推進、中でも女性の健康づくりに注力。
働く女性にとっての「からだにいい生き方」や予防のための「セルフケア」を継続する暮らしのつくり方を伝えている。
趣味:日々の楽しみは、心打つライブと毎日調合するハーブティー、そして家族と食卓を囲う時間。