オーガニックのものが良いのはわかるけれど徹底できないし、オーガニック派の人ってなんかやりすぎてるイメージがある...。
わたしはこれまで、ちょっとそんな風に疑問に思っていた。
植物療法士ではあっても、オーガニック食材やコスメだけにこだわっているわけではない。
それでも、自分にとって本当に必要なものの中身の良さがオーガニックが勝っているなら迷わず選ぶ。
ただそれだけだった。
それが、35歳に向かうにつれて、以前よりも「オーガニック製品」の心地よさを強く感じるようになり、この感覚はなんだろう?と思いはじめる。
そんなときにフィレンツェのオーガニックワイン農園へ行って。
この感覚の正体は「昔よりももっと今の自分の生き方に深く向き合っているから」ということに気づいた。
もし、今あなたが、なるべくナチュラルなものをからだに取り入れたいと思っているけれど、オーガニックってもの自体があいまいなまま...。
という疑問をもっていたら、まずは自分にとって何が大切か?を考える時間を取ってから、その後に生命力の高いオーガニック商品の強さを取り入れる順番の意味を知ってほしいと思う。
有機食品を食べることや自然派化粧品をただ使うことが、オーガニックライフなのではない。
見渡すとオーガニックと名のうつ商品はどんどん街に増えていき、たくさん目にするようになった。
自分でからだをケアするために良いものを取り入れようという人もいれば、ミーハーにオーガニック食材にこだわる人も多いし、色とりどりの野菜を使った流行りのカフェなどはフォトジェニックでいいとか、オーガニックの曖昧さもまだ目につく。
はたして、無農薬で育てられた野菜を食べたり、オーガニック化粧品、スキンケア商品を使うことがオーガニックライフなんだろうか?
実際、オーガニックだから良いんだ!と商品を買い揃えていても、自分の手でからだや暮らしに手をかけようとしていない人も多いように感じる。
わたしが思うオーガニックライフとは、有機という生きている命をもらうこと=生きることにフォーカスすることだと思うからだ。
どんなことを大切にしたいのだろう?
どんな人生を送りたいのだろう?
そうやって、まずは自分自身の生き方と向き合わなければ、からだをつくっている命、人生を豊かにしてくれるものを取り入れようという意識は向かない。
自分自身の内側に意識が向く前にどんなに良さそうな商品を揃えても、表面上だけの行動で選んだものは価値を理解できず長続きしないものだろう。
時代に流されない生き方を通して守られ続けているワイナリー農園と人々
10月に訪れた、フィレンツェ郊外のワイナリーで見たオーガニックの暮らし。
ファットリア・ラヴァッキオ(Fattoria Lavacchio)農園は、1700年にある貴族によってキャンティワインやオリーブオイルがつくられていた土地を現オーナージェノバ出身のファミリーが購入し今に至る。
周りの風景や伝統を守りながら修復されたアグリツーリズモ(農業を営んでいる宿泊施設)には、葡萄畑、オリーブ畑、ワイナリー、ホテル、レストラン等の施設が揃っている。
全イタリアの中でもオーガニック農法、いわゆる無農薬農法のパイオニア的存在だ。
驚くのはフィレンツェから電車で約30分のとても行きやすい距離にあること。
ポンタッシーヴェ駅に着いてから、ドライバーとミートして、約15分〜20分タクシーで丘を登っていく。だんだんと景色が変わりはじめ、なんだかとてもいい予感がしていた。
到着して降りると、急に澄んだ空気になる不思議な感覚。
敷地内で、すぐに一人の男性の方が迎えてくれたのは、今日ワイナリーツアーの案内をしてくれる日本人の尾崎さんだ。
「今回は約2時間のツアーの中で、収穫、発酵、熟成、ワインテイスティングの順番で見学いただきますが、今日はラッキーなことにお二人だけなので、プライベートにゆっくりご覧いただけます。なんでもご質問くださいね。」
という第一声に、心が躍る。
所有している畑では、肥料のかわりに、2シーズンに一回豆類を植えて(トマト、そら豆、ズッキーニ、グリンピース...という感じで)窒素分や栄養分を土地に与えてあげることで、量は少ないけど美味しくて濃いリッチな味の野菜ができるという。
10月半ば収穫直前のオリーブの木。
グリーンから紫に変わる理想的なタイミング。
絞るだけで吹き出るオリーブジュース。
40年前は疑問なく殺虫剤、除草剤をまき、便利な肥料もうまれ「肥料をあげておけば2倍トマトができる」といった調子で化学薬品に走っていった時代の中、「それは間違っている」と昔からの農法を貫いてきたそう。
変わりゆく時代に変わらない信念を持ち続ける生き方は勇気がいるけれど、その後の結果は必ず返ってくるものなのだろう。
この小さな農園でつくられているオリーブオイルは、今年スローフード協会からベストオリーブオイル1位に選ばれる出来栄えだというのだから。
毎年、脈や呼吸をたしかめるかのように、手を使って生きている命をつなぐ
収穫後の葡萄畑
イタリア全土で栽培が盛んな葡萄品種サンジョヴェーゼを主体としたキャンティワインは、イタリアワインの格付けワイン法のD.O.C.G(ワインの品質を保証・管理するため、品種や生産地、栽培方法、熟成期間などが細かく定められた規定)によって広くなりすぎて大量生産されるようになってから、巨大名門ワイナリーもあれば、こちらのような個人経営の小さなワイナリーもある。
だからこそ、農園によってピンキリでこだわりはさまざま。
わたしたちが訪れた10/15には、10日前くらいに収穫が終わっていて、葡萄の姿を見ることはできなかった。
①収穫
9月の第1、2週目に白葡萄、第3、4週目、10月の1、2週目に赤葡萄を収穫した後は、11月から野菜畑と同じように列間にたくさんそら豆やマスタードの原種などを植えて、殺虫剤の代わりにする。
マスタードの原種
冬の間に生やし、新しい実が生えて来る頃にそら豆をとって土にかえす。
生やしたままで周りの土に栄養を与え、お互いが共存し、いろんな植物の働きのおかげで葡萄がすごくいい状態になるのだそう。
これが基本的なオーガニックの考え方だ。
葡萄の木が低い理由は、大味にならないように栄養がいきづらい上の部分は上を落とし下1/4くらいだけ残して小ぶりにして生産量を抑え、より凝縮した味にするため。
剪定するとき枝は毎年いい枝だけを1本だけ残すために、メインの木がダメージを受けないように26ヘクタールを一個一個すべて目視で「見て、選んで、切って」を繰り返し、機械では行わないというこだわり。
収穫の際も、甘み、酸味、糖度、香りのバランスがいい理想的な日に収穫をするために、タンニンの質は機械じゃはかれないから、人間の舌で味見をする。
冬眠に入ると枯れたような状態になるけれど、毎年春を迎えて冬眠から目覚め水分を吸い樹液がたれたときに「生きてた....!」と安心すると聞いて、命を感じる感覚が伝わってきた。
わたしたちも、まるで太い血管を見ているようで、触れるとドクンドクン...と脈が聞こえてきそうだったから。
②発酵
葡萄の粒と茎を機械で分けて、つぶさないようにタンクへ。
泡(二酸化炭素)が出ていると発酵しているサイン。
こちらは出切った状態。
発酵の過程では、1日1回中を混ぜながら葡萄自身の皮についている天然酵母だけでゆっくりゆっくりデリケートに発酵行う作業。
③熟成
オールシーズン18度の気温、85%以上の湿度を保ちながら、一番ニュートラルで匂いが強くなく、気泡が小さく密度が高くて密閉性のあるハンガリー産のかしの木(オーク材)の樽を使って熟成をする。
300年前から使い続けている地下の石造りワインセラーでは奥の60年樽以外の30年の樽を4つ使用している。
脈を打つ木から収穫した葡萄をデリケートに熟成をさせて、手をかけて大事に育てていく行程は、子育てのように毎年生きている鼓動を感じながら命をつないでいるように見えて、わたし自身もなんだか胸が熱くなっているのを感じていた。
だって、ここまで愛情を注いで美味しくないはずがない。
「いったい、この葡萄はどんな味になっていくのか?」とワクワクせずにはいられなかった。
手をかけて血を通わせた関係から生まれるワインの味は一瞬で人の心をつかむ
ワインテイスティングでは、自家製のサラミと生ハム、地元のペコリーノチーズ(羊のチーズ)に自家製パン。限定生産のオリーブオイル....という本当にすばらしいラインナップ。
まずは、木樽熟成をしていない全トスカーナのキャンティワインで、酸化防止剤無添加、葡萄ジュースだけでの味わいをダイレクトにピュアさを味わってほしいという想いが詰まったpuroからテイスティング。
100%のサンジョベーゼ(葡萄)の味が口の中に爽やかに広がり、人と植物がその血を通わせた期待を裏切らないフレッシュな味に仕上がっていた。
2本目(右)は同じピュアだけれど、1年小さい樽で熟成したもので、年間に4000本しか作ってないワイン。
香りをかぐと、目の前にふわっと農園が広がり、夏っぽかったり青リンゴの皮みたいな自然のものを感じる味わい。
フルーティーさは残っていて、レッドベリーがブラックベリーになったような...。
赤ワインとしてはどちらも非常にライト。
時間があったので特別に5年熟成ものも試飲させてもらったこちらの赤ワインcedro。
よりスパイシーで、より複雑な香りがし、肉料理によく合う味。
どのワインもまったく無駄な味を感じなかった。
最後にデザートワインを。
伝統的な由緒正しき7年熟成のヴィン(ワイン)サント(ホーリー)は、聖なるワインといわれ、カトリックのミサに使われていたものだ。
8月くらいに早めに白葡萄を収穫して、5~6カ月間干して、レーズン状になったジュースをそのまま樽に入れて6年間祈るだけらしい(笑)
自然の力だけを信じるつくり方から生まれる味は、高級なウィスキーみたいな木の味と甘み。
一口でからだと心に染みわたる美味しさを感じるワインを飲んだのは、初めての経験だったので、わたしたち夫婦は涙が出そうなくらいに感動していた。
それは、血が通った生き方を目の当たりにして、自分自身が向かいたい暮らしにこのワインを取り入れて豊かに過ごす時間の姿が鮮明に見えたからでもある。
どんなときも目の前の大切な人の雑多な個性と向き合って深い関係を築いていく生き方をしたい、血を通わせた人との心とからだが心地よいと感じるヘルシーであたたかい食卓時間を一層大事にしたいという想いを改めて感じたワイナリーツアーだった。
自然と共存する農園が教えてくれた「自分を内側から豊かにしてくれるものは何なのか?」を問う生き方
自然の恵みから健康な葡萄が育ち、一生懸命、植物や暮らす人々がからだに取り入れるものに手をかけることを大切にしていて、フィレンツェの丘に360度吹き上げる風、山、人々と共存するバランスの保たれたクリアな空気が循環している場所。
だからこそ「オーガニックライフとは命を大切にすることなんだ。」と感じることができたのだと思う。
ここで過ごす尾崎さんからの話で、実は一番印象的だったのは、案内をしながら教えてくれた「いつかトスカーナで日本人として自分のワイナリーを持つことが夢なんです」という話だった。
それを聞いて、わたしたちがここまで感動した理由がより深くわかった気がした。
丁寧でわかりやすいだけでなく、「本当に好きなこと」へのパッションがわたしたちの心をたしかに動かしていたから。
フレッシュな甘さが美味しい、
ももの原産種「やまもも」
好きなものを見て、好きなことをして、手をかけたものには自信と誇りをもって、夢を明るく語れる生き方がとても眩しく見えた。
自分自身が進みたい方向を照らしてくれる人々や食べ物、周囲の環境をしっかりと理解して感謝しているからこその表情と言葉。
自分の命や人生と向き合って、プラスな物、ためになるもの、命を豊かにしてくれるものを体に取り入れよう!と考えてはじめて、生命力の強いオーガニックの食品や製品を使う、というチョイスが現れる。
そういった自分を高めてくれる命たちと、相互理解をし共存する生き方がどれだけできているかで、内側にある大切な想いを守りぬくために背中を押してもらう環境が整っていくのだと思う。
前に進んでいない...。と感じるときは、ぜひ胸の奥底から感じる大切なものと向き合って、今の自分に必要な心地よいオーガニック製品を選ぶときには、静かに考えてみてほしい。
あなたのライフ(命)を豊かにしてくれるものは何ですか?
【ファットリア・ラヴァッキオ(Fattoria Lavacchio)農園 アグリツーリズモ】
フィレンツェに来たら、ぜひ少し足をのばしてワイナリーの見学へ。
丁寧なスタッフによる豊富な知識と情熱は、訪れる人みんなが「ここに来てよかった」と思える時間をくれるはず。
時間が許すなら、レストランでの食事や宿泊も楽しんでみると、この場所の空気を吸う時間のすばらしさを体感できると思います。
竹内 亜希子 Akiko Takeuchi
-植物療法士(フィトセラピスト)
-女性の健康経営推進員
-健康経営エキスパートアドバイザー
幼少より10年間シンガポールで暮らす。
帰国後、会社員として働く中で余白時間を奪われる社会の渦に揉まれ、20代半ばに坐骨神経痛を一年患い、根本改善のためにストレスケアにフォーカス。食生活改善と植物療法を実践し、3ヶ月で完治。
植物療法士として、働く世代の女性の心身のセルフケア、ストレスやホルモンバランスの体の変化をコントロールできる体質づくりを指導。
オリジナルハーブティーブレンド 販売、カフェ等の店舗向けオリジナルハーブティー商品企画・提供、大切な人とのヘルシーな時間を追求するカルチャーメディア『Documentary Gift 』を運営。
現在は、ヘルスケア企業にて、健康保険組合や企業に向けた生活習慣改善プログラムの提供・運営や健康経営推進、中でも女性の健康づくりに注力。
働く女性にとっての「からだにいい生き方」や予防のための「セルフケア」を継続する暮らしのつくり方を伝えている。
趣味:日々の楽しみは、心打つライブと毎日調合するハーブティー、そして家族と食卓を囲う時間。