この企画は、様々なジャンルの専門家の方を取材し、‶楽しさの高み"を目指した仕事への想いや大切な人との記憶に残る体験をお聞きするドキュメンタリー番組となっています。
今回は駒沢大学駅にあるCafe nt(ニト)のオーナーをされている紅茶の専門家の野上 富巨さんに取材させていただきました。
● 紅茶って、どんな風に好きな味を見つけていけばいいの?
● 何がきっかけで、紅茶の専門家としての道を歩み始めたのか?
● カフェに来てくださるお客様がお茶との出会いから変わっていったこととは?
などのお話を伺い、こだわりの紅茶を伝えるだけでなく、カフェという場を通じて人との輪を作っていきながら、暮らしの選択肢を一歩ずつ広げていくきっかけを提供したいという想いを感じました。
「せっかくのお気に入りのティーカップだから、美味しい紅茶を淹れて飲みたい」、「美味しい焼き菓子を見つけたから、家族と一緒に楽しめる紅茶を見つけたい」など、いつもよりちょっとテンションが上がる時間を送りたいと思っているあなたへ。
是非、出会ったことがない味につながるヒントをこちらから見つけてみてください。
Cafe nt(ニト)オーナー
野上 富巨
(Tomio Nogami)
Cafe nt(ニト)店主。
日本紅茶協会認定ティーアドバイザー。
幼い頃から紅茶が好きで、紅茶メーカーやカフェなど飲食業を経て2013年に紅茶のカフェ「nt(ニト)」を東京西荻窪で開業。現在は駒沢大学駅に移転し、「カジュアルに楽しめる人との輪」をつくっていきたいという想いから、カフェだけでなくレンタルスぺ―スとしてワークショップなどの場としても解放している。
美味しい紅茶とコーヒーが飲める駒沢大学のオシャレなカフェnt(ニト)はどんな場所?
━━ 本日はお時間を頂き、ありがとうございます。
現在、Cafe nt(ニト)でオーナーをされていると伺っていますが、メニューのこだわりやカフェとしてのスタイル、またご自身が活動されている事などありましたらお聞きして宜しいですか?
野上:駒沢大学へ移転をする前は、飲み物は紅茶に特化していたのですが、現在はコーヒーの専門家の方にも時間限定で入ってもらい日本ではあまり飲めない北欧のフルーティーなコーヒーをお客様にお出ししているので、紅茶派、コーヒー派の方どちらもお楽しみいただけるようになっています。
その中で、自分は紅茶の専門家として地域にこだわった紅茶を提供していまして。
カフェを通してお客様が飲みたいと思う紅茶を一緒に探っていくことで、もっと紅茶を日常的に飲んでもらえるようになったら嬉しいですね。
カフェ以外では、紅茶に関するセミナーで講師としてお話させていただくこともあり、以前にイギリスのセレクトショップ BRITHISH MADE(ブリティッシュメイド)さんのコラム連載で紅茶について書かせて頂いたこともありました。
━━ こだわりの味を提供しながら、より居心地がよい場作りを大事にされているんですね。
落ち着いていて解放感のある心地よい空間で来ているお客様たちがゆったり思い思いの時間を過ごされている印象があります。
野上:もともとカフェは「カジュアルに楽しんでもらいたい」というコンセプトのもとに始めていて。
ここに集まる方々にとって人との繋がりがどんどん出来ていく場になったら、という想いもあるので、カフェをレンタルスペースとしてワークショップなどに使っていただくこともしています。
紅茶を好きになったきっかけは、幼い頃の忘れられない原体験にあった
━━ 紅茶専門店の茶葉の販売ではなく、紅茶に特化したカフェにしようと思われたきっかけは何だったのでしょうか?
野上:大学を卒業してアルバイトでスターバックスに7年くらい勤めていたのですが、そこで飲食業界って面白いなと思ったんです。
その頃から最終的には独立しようと思っていたのですが、じゃあ何でやっていこうかなと思った時に、よくよく考えたらコーヒーより紅茶の方が好みで、飲み物の中で一番好きなのは紅茶だなと。
━━ あまり、男性の方でコーヒーより紅茶好きの方にお会いしたことがないかもしれません。紅茶を好きになられたのは、小さい頃からでしょうか?
野上:そうです。幼少期の原体験がきっかけになっているんですよね。
この場所は母親の実家だったんですが、世田谷はパン屋さんが多くて、よくパンを食べる時に必ずティーバッグなどで紅茶を飲んでいた家庭だったんです。
寝込んでいた時に、母親がミルクティーを出してくれて、それがすごく美味しくて。
風邪で水分が足りていなかった、というのもあるかもしれませんが、本当に美味しかった。
それ以来、紅茶が好きになりました。
━━ 味や香りと特別な人、家族との時間は記憶に鮮明に残りますよね。
野上:紅茶が楽しい思い出とともに自分の中に残っているイメージなんだと思います。それで、やっぱり紅茶がいいなぁと思って。
スターバックスを辞めて、まずはマリアージュフレールという紅茶屋さんに入りました。
━━ カフェだけでなく紅茶のメーカーでのご経験もあるのですね。
販売というよりは、紅茶を淹れる方のお仕事だったのでしょうか?
野上:はい。マリアージュフレールでは茶葉も扱っていますし、サロンで飲んでいただける所もあるのですが、僕は紅茶を淹れるサロンの方におりました。
紅茶を淹れる経験を積んで、技術を学んで。約2年働いた後は別のカフェでオープンの経験を積んでから、独立しました。
こだわればこだわるほど実は奥が深い紅茶の世界
━━ お茶って、緑茶やウーロン茶、ハーブティー、紅茶などの分類がありますが、飲む側はあまり意識せずに選んでいると思うんですよね。
そういった方々へ紅茶の違いをお伝えするとしたら、どんな特徴がありますか?
野上:お茶は広義だと「植物の葉っぱを蒸らして淹れるもの」、狭義だと「お茶の木の葉っぱ」で、発酵の度合いによって変わっているもの。紅茶は強発酵なので。
紅茶の場合、地域で分かれてるんです。
北インドのダージリンやアッサム、スリランカのセイロンなど。
そして、味を一番左右してくるのは、香りですね。
香りがなかったら、味わいの違いって感覚としてそんなにわからないかもしれないと思います。
わかりにくいのはフレーバードティーで、実はなじみのあるアールグレイはフレーバーだというのを知らない方も多い。
(※フレーバードティー=茶葉に香料を噴霧などして着香した茶)
アールグレイは柑橘系のベルガモットで香りをつけた紅茶なので、「アールグレイ」という種類ではないんですよ。
━━ なるほど。
確かに、一般的には意識されていない部分かもしれません。
野上:特にアールグレイとオレンジペコは種類だと思っている方が多いです。
オレンジペコは銘柄を指すものではなく、本当は紅茶の等級を表す言葉なのですが、マリアージュフレールに勤めていた頃は「オレンジペコください」と結構言われました。
※等級というと品質やクオリティーを表すものと考えがちですが、あくまでも茶葉の形状や見た目、サイズを表すもの。オレンジペコとは茶の枝の尖端部分から2番目に若い葉。オレンジの味はしません。
でも、これって実は販売している側がちょっと悪い所もあるんです。
━━ どういうことでしょうか?
野上:もともと「オレンジペコ」という名称で茶葉を売っているお店さんが結構多くて。
お店でその名前で出していたら、実際はブレンドだったり。
たとえば、アッサムをオレンジペコという名称で売ったりする。
販売者側はオレンジペコ(2番目に若い葉)以上のスーチョン(大きくしっかりとした葉)ではないですよという分類で分けて販売してる意識なのかもしれないですが、消費者にはわからないので・・・。
━━ なかなか知らないものですね・・・。
紅茶は地域別で考えると種類はかなりあるということでしょうか?
野上:実際どこまで置いてるかはお店によって違いますが、農園が沢山あるのでコーヒーと同じくらい種類はあるかなぁと思います。
あと、紅茶は摘むシーズンが地域によって分かれていたりするんです。
たとえば、ダージリンだとクオリティシーズンといって、茶を摘むのに適した時期がファースト、セカンド、オータム(春、夏、秋)と年3回あるんですよ。
でも、必ずどの地域もクオリティシーズンが3回あるかというとそういうわけではない。
━━ シーズン毎に味わいって結構違ってきますか?
野上:特にダージリンは違いますね。
アッサムもファースト、セカンドとあるのですが、ファーストの方があっさりしてたり。
でも、あまり浸透していないので分けてお茶を出している所はあまりないと思います。
地域名、さらには農園名、、、これだけは全部ハンドピックでやってますよ、というのもあれば、これは機械でやってますというのもあって、こだわれば細かいんですよね、紅茶って。
たった一つ好みのお茶を見つけるだけで、暮らしの中の選択肢が変わっていく
━━ これまで、紅茶をお客様に味わっていただいた際に、印象に残っている出来事はありますか?
野上:個人的にセイロン紅茶の「ルフナ」が好きで、日本であまり浸透していない地域のものなんですが、結構お客様から「あ、こういうのもあるんだ。美味しい」と言っていただくことが多いんです。
(セイロンの地域はスリランカ。ルフナはセイロンティー中では一番低い土地で栽培されている。)
ルフナ以外でもダージリンをお出しして「今までこんな紅茶飲んだことない」と言っていただけたり。
新しい味に出会って、好きなものがわかったからこそ「次からこういったものを選べばいいんだ」と気づくことができるんです。
━━ そういう言葉をもらえるのは、地域にこだわっているからこそという感じですね。
野上:こちらも紅茶の良さが伝わって、それをきっかけに楽しめる時間を増やすお手伝いができたことは本当に嬉しいです。
━━ もっと紅茶を日常的に取り入れていくには、どういったきっかけが必要だと思いますか?
野上:実は、紅茶のブレンドをニトで出していない理由はそこにあって。
ここでお出ししているものは、ブレンドではなく基本ストレートかフレーバーで、地域性にこだわっているんです。
先程のお客様のエピソードのように、「大体、この味のものを飲みたかったらこの地域のものを買えば、近い味が飲める」というのがみんなに浸透すれば、自分の好みのお茶を見つけられると思うので、日常的に選びやすくなるかなって。
━━ 地域が同じものを選ぶと、味が似たものも選べるって発見だなぁ。
野上:日常的に取り入れるためには、昔からのなじみというのがあると思うんですよね、最初は。
僕の場合は、偶然、紅茶をよく飲む家庭で育ったからなじみがあった。
でも、大人になって自分の好きな味をチョイスできるわけなので、選ばないのはもったいと思うんです。
━━ 今味わってほしいという、おすすめの紅茶はありますか?
是非、体験させていただきたいです。
野上:ルフナはもちろん好きなのですが、今「アッサムティーのコンゲア」というものが思いのほか美味しくておすすめです。アッサムを仕入れる場所を変えてコンゲアという農園のものにしたのですが、これが美味しくて。
ルフナは結構、茶葉の香りと淹れた時の香りが全然違います。
茶葉はドライフルーツのような香りですが、淹れると黒蜜っぽい感じ。
*写真だとわかりずらいですが、左がアッサムのコンゲア、右がルフナ
━━ (今回、編集長は香りで選び、コンゲアを淹れていただきました)
淹れていただいたコンゲアの味わいは、優しくて繊細で、どことなく甘い香気が鼻から抜ける感じで美味しいです。
厳選した地域の茶葉というのもあるかと思いますが、実際に飲ませていただくと、やはり野上さんの淹れ方の腕が良いのもわかります。
機械では出ない味で、こういうアッサムは飲んだことがないかも。
野上:そう言っていただけると嬉しいです。ありがとうございます。
これは、クセもないし甘さもあるので、紅茶が好きな方はみなさん気に入られる味だと思います。
紅茶は生産者の作り方の違いで変わり、本当に地域が広くて、それによって全然違うんですよね。
相手に本当に喜んでもらえたかは、その後の一言で決まる
━━ 野上さんご自身は、紅茶に詳しくない方へ紅茶を贈る際、どんな目線で選ばれているのでしょうか?
野上:やっぱり、贈る時は関係性が大事だと思うんですよね。
良い関係性がある中で「もともとこういう味が好き」というのがわかっていれば近いニュアンスのものを選んであげることができる。
━━ その目線で選んだものなら、その後も気に入って続けてくれる可能性が高まりますよね。
野上:相手が「本当に喜んでくれたか」というのが、僕の中の指標になるかなと思います。
相手のことを考える時間は楽しいし、それ自体は自分から見たら自己満足だと思うんですけど、相手に渡した時って「あ、これちょっとほしくなかったです」って返す人はほぼいないじゃないですか(笑)
だからこそ、その後が大事で。
贈ったものに対して「ちゃんと愛着を持って使ってくれているか」
お茶なら「実際に飲んでくれているのか」
「あれ美味しかったんだけど、どこで買ったの?」といった一言を言われた時に初めて、「自分の贈り物は成功したんだ、よかったなぁ」とようやくわかるんじゃないかなと思っています。
━━ 美味しいと思っているものが伝わった証だし、視野が広がって生活を変えようという意識が高まっているのもわかるので本当に喜んでもらったのが伝わりますよね。
ありがとうございます。
お時間があっという間に来てしまいました・・・。
最後に、今後、紅茶やニトを通して、新たにやっていかれたいことなどがありましたら、是非教えていただけますか?
野上:自分がこだわっている地域性のある紅茶をお客様により伝えていくために、「飲み比べ」をやれたらと考えています。
種類が多いとすべてを同じタイミングや質で提供するのも難しいので、2種類で半々の量でやってみてもいいかなと思っている所ですね。
好きなものを選んで飲み比べをすると、紅茶って違いがくっきりわかるんです。
比べないと普段飲んでいるものと何が違うのかがわかりずらいので。
━━ お茶やコーヒーは一杯一杯丁寧に淹れるものなので、同じタイミングで何種類も出すのは大変ですよね・・・。
野上:お酒だったら注げばいいだけですが、お茶は淹れているのでなかなか(笑)
やっぱり、淹れたてのこの瞬間の味、香りを味わってほしいというものがありますから。
━━ 野上さんに淹れていただいたコンゲア、香りも良く味も本当に美味しかったです。
本日は貴重なお時間と美味しい紅茶をありがとうございました!
野上:こちらこそ、ありがとうございました。また是非、遊びにいらしてください。
【Cafe nt(ニト)】
東急田園都市線 駒沢大学駅西口より徒歩4分
東京都世田谷区上馬4-12-11
tel:03-4291-3013
営業時間 9:00~22:00
不定休
竹内 亜希子 Akiko Takeuchi
-植物療法士(フィトセラピスト)
-女性の健康経営推進員
-健康経営エキスパートアドバイザー
幼少より10年間シンガポールで暮らす。
帰国後、会社員として働く中で余白時間を奪われる社会の渦に揉まれ、20代半ばに坐骨神経痛を一年患い、根本改善のためにストレスケアにフォーカス。食生活改善と植物療法を実践し、3ヶ月で完治。
植物療法士として、働く世代の女性の心身のセルフケア、ストレスやホルモンバランスの体の変化をコントロールできる体質づくりを指導。
オリジナルハーブティーブレンド 販売、カフェ等の店舗向けオリジナルハーブティー商品企画・提供、大切な人とのヘルシーな時間を追求するカルチャーメディア『Documentary Gift 』を運営。
現在は、ヘルスケア企業にて、健康保険組合や企業に向けた生活習慣改善プログラムの提供・運営や健康経営推進、中でも女性の健康づくりに注力。
働く女性にとっての「からだにいい生き方」や予防のための「セルフケア」を継続する暮らしのつくり方を伝えている。
趣味:日々の楽しみは、心打つライブと毎日調合するハーブティー、そして家族と食卓を囲う時間。